いっぽんのき
文 塩野米松
絵 松本春野
農文協
内容紹介
里山が都会に。空の上から見下ろすと、雲間から工事や木を切る様子が垣間見える。川が無くなり、山がならされ、人が増える。そして都会にビルと住宅、車。それでも小さな公園に一本のドングリの木が残っていた。木の下のベンチにおばあちゃんと子ども。一匹のセミが地上に出てきて…
この絵本の原稿をもらった時、この文章なら、今まで絵本の中に登場しなかった“新しいおばあさん”を描ける!と胸がワクワクしました。
絵本の中のおばあさんといったら、たいてい誰かの妻になって誰かの母になって、家庭の中にいる女性。
優しく家族をケアする場面は出てくるけれど、どんな人生を歩んできた人なのか、想像させるものが少ない気がします。
誰かの妻、母、祖母じゃない場合は、魔女、魔法使い、化け物とか、この世のものではない設定ばかり。
そんな中、『いっぽんのき』では、虫好き少年と仲良くなる虫に詳しいおばあさんだったんです!
虫好きというのは、私の中では、インテリなんです。
好奇心と自立心が旺盛で、知的で品がよい高齢女性。
私の中でどんどんイメージが膨らみました。
アクセサリーもつけて、自分に誇りを持っている女性にしよう。
彼女の部屋はどうするか……
誰にも遠慮せずに集めた、彼女の好きなものが詰まった一人暮らしの部屋にしよう!
絵描きというものは、おばあさん同様、男の子の人物像、男の子のお母さんの人物像、自分の中でしっかりと設定して描いていきます。
この絵本は、絵巻物のように、流れゆく時代の中で、環境が激しく変化していく様子を描いていきます。
人々の生き方も時代と共に変わっていきます。
古いものから新しいものへ移り行く中で、失われていくもの、生まれてくるもの、その両面を絵の中で描こうと思いました。




